下関駅前・日和山公園の噴水

 その素性を知るための手がかりがなかなか見つからなかった下関駅前の噴水にようやく一筋の光。1913年(大正2)9月の『福岡日日新聞』で偶然、「下関駅前の泉石」という記事を発見した。下関駅前の「泉石」について設計が完了したことを受け、その概要を紹介するという記事だ。少し長いが記事を引用する。

 「下関駅前の泉石に就ては神戸管理局松島技師の下にて考案中なりしが過日設計を了(おわ)り下関に送付し来り目下森川保線区主任の下にて工事に着手する事となれるが其大要を聞くに台石は花崗岩の枠形に天然石をコンクリートにて固め其径十一尺高さ三尺七寸許り其上に是れに応ずる高さ七尺六寸の柱石をそが上に青銅の廻転噴水器を置き頂上に電燈を装置し尚ほ柱石中に電燈三個孰れも八方を照らす装置にて台石の周囲に泉水を導く時は此の外郭の直径は三十尺の大きさとなり台石の上よりも柱石の七分通りの辺よりも八方に噴水する装置にして経費約千五百円一ヶ月に竣工の筈なり」(『福岡日日新聞』1913年9月26日付)

 見出しにこそ「噴水」の二文字はなかったが、中味はまさに下関駅前の噴水の話である。神戸管理局の松島技師による設計の概要は次の通り。

  ・台石は花崗岩の枠形に天然石をコンクリートで固める
  ・台石の大きさは、さしわたし11尺(約3.3m)、高さは3尺7寸(約1.1m)
  ・台石の上に高さ7尺6寸(約2.3m)の柱石を載せる
  ・柱石の上にはさらに青銅の廻転噴水器を置き、頂上には電燈を取り付ける
  ・柱石には三個の電燈を取り付ける
  ・水を引いたときの外郭は30尺(約9.1m)とする
  ・台石からも柱石からも水を噴く仕掛けとする
  ・柱石は七分目あたりから水を噴かせる

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下関駅前の噴水絵葉書「下関十二名所 停車場」

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同上(拡大)

 下関駅前の噴水を撮影した絵葉書を見てみると、まさにこの設計通りの噴水が建設されたことが判る。天然石を埋め込んだ台石。台石の上には柱石が立ち、台石からも柱石からも水を噴かせている。柱石のくぼみに上下三つ並んでいるのが電燈だろうか。噴水池の大きさは台石三個分ほどあり、確かに台石は11尺、外郭は30尺という比率とも合いそうだ。予想外のところから、この噴水の建設時期がひもとけてきた。竣工までに1ヶ月を要すとの記事の見通しに従えば、1913年10月ないし11月頃に発行された新聞の中から、この噴水の完成を伝える記事が発見できるかも知れない。

 さて、ここでもう一枚、絵葉書を見ていただこう。

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日和山公園の噴水絵葉書「下関名勝 関門海峡の展望に富む…日和山公園」

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 下関には関門海峡を望む小高い丘に設けられた日和山公園という公園がある。大正時代に開園した市内で最も古い公園だという。かつての日和山公園には噴水があり、その噴水を撮影したのがこの絵葉書だ。下関駅前の絵葉書と見比べてみると、そう、これはどうやら同じ噴水だった可能性が高い。同じ噴水を二基建設したのか、それとも一基を解体し移設したのだろうか。