東京大学噴水物語(一)

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 晴れた日には噴水の水音もいっそう心地よい。東京大学本郷キャンパス、総合図書館前の噴水である。重厚な総合図書館の建物を背景に、両脇の楠の大木とともに「ここしかないというほど動かし難い位置を占め」(*1)、構内最高の空間を生み出している。夏季休業中のせいか、広場に学生の姿は少なかったが、学期中ともなれば格好の憩いの場として大勢の学生で賑わう。

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 図書館前で「フォーク・ダンス」に興じているのは37年前の学生である。
 昭和45年(1970)、本郷キャンパスで二年ぶりの五月祭が開かれた。6月1日付の『東京大学新聞』(第1932号)によると、フォークダンスは、五月祭の企画として5月30日午後2時から安田講堂前で行われる予定であった。前年の壮絶な攻防戦の記憶も生々しい、学生運動を象徴する「時計台」前で輪になって踊る。そこには、この五月祭を新しい出発点とし、穏やかなキャンパスを取り戻そうという想いも込められていたはずである。しかし、「五月祭粉砕」を叫ぶ全共闘約百名に安田講堂前は占拠され、フォークダンサーたちは、想い叶わず図書館前の噴水の周りをぐるぐると回る羽目になった。

 37年前のフォークダンスと違い、平日の昼下がり、カメラ片手にひとりで噴水の周りをぐるぐると回る私は、学生からいささか奇異の目で見られたかも知れない。これからぐるぐると回り道もしながら、来年(2008)には御年80歳を迎える噴水が見てきた昭和・平成の東大本郷キャンパスの風景をたどろうと思う。


*1 木下直之・岸田省吾・大場秀章『東京大学 本郷キャンパス案内』(2005)