2011夏:噴水の旅―地方博覧会の噴水

 旅の楽しみの一つに地元の図書館訪問がある。「旅に出て、なにも図書館に籠ることはないだろう」という向きもあるだろうが、準備さえしっかりしていけば、旅先の図書館はお宝の山なのだ。書庫には国会図書館に所蔵されていない本もゴロゴロしている。これを見逃す訳にはいかない。特に、地元で行われた博覧会の記録など、本当にここでしか見られないという資料もあるので、事前の蔵書チェックがモノを言う。
 
 今回の旅では香川の高松市中央図書館、愛媛の愛媛県立図書館、広島の呉市立図書館、福岡の福岡県立図書館の4館を訪れた。まずは愛媛県立図書館の収穫から忘れないうちに書き留めていこう。
 
【1】松山市主催国有鉄道開通記念全国産業博覧会(1927年)の噴水
 
 この博覧会は、1927(昭和2)年、国鉄讃予線(現在は「予讃線」)が松山まで開通したことを記念して開かれたものである。会誌の『国有鉄道開通記念全国産業博覧会誌』を見ると、正門を抜けてすぐ、第一号館の正面に噴水があったことが確認できる。
 
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 同誌にはこの博覧会では場内の建造物の基本設計を「東京美術装飾社」という業者に依頼したとある。同社は本社を「東京市浅草区南松山町」に置く東京の業者だが、経営者の「三好雅利」氏が愛媛県出身であるという縁で声がかかったようだ。実際の建築工事の多くは地元松山の別の業者が受注したようだが、噴水については「噴水築造請負三好氏ト七百円ニテ契約締結ス」とある。
 
 「場外のアーチは勿論、正門、奏楽堂、噴水塔に至るまで、時代の趨勢に連れて広告宣伝に利用せられたものが多かつた」とあるように、この噴水塔にはアサヒビールが広告を出している。アサヒビールがいくら払ったのかは残念ながら見つけられなかった。
 
 また、博覧会側では、出品者が装飾について業者と直接折衝するときの便宜を図り、身元や経歴の確かな装飾業者を「指定装飾業者一覧」としてリストアップしている。無論、先の東京美術装飾社は入っているが、ここにわれらが「浮田仙太郎」氏の「ウキタ電気営業所」の名前を発見することができた。
 
 ウキタ電気営業所はこの博覧会では助成金の交付を受け、娯楽施設を自ら運営している。これは「子供の国」という一種の遊園地で、園内の中央には桃太郎の噴水塔があった。『松山市主催国有鉄道開通記念全国産業博覧会写真帖』に写真が残っているが、桃から飛び出してきたのは、勝ってくるぞと勇ましく、すでに陣羽織姿の桃太郎という無茶苦茶なデザインの噴水である。
 
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