「東京見物(八)」

東京朝日新聞 明治40年3月26日

東京見物(八) 藪野椋十
 手軽な手広き見物――今の内
 大噴水塔――何処から水が出る
 美人絵と女番人――油絵とモデル


一号館は道が悪いから後日見直すことヽして、広庭に出る、大噴水塔がある、但し水は未だ無い。塔の頂には厭な上目を使った女の裸人形が立って居る、股間から水を噴かせる仕掛で無ければ好いが、と聊か心配になる、人形の下に段々があって、鳥首獣身などの妖精(ばけもの)が幾個も据えてある、どれも水を吐き相な貌では無い。夜分に為ると無数の電気燈を点けるように設備(しかけ)てある相だ水火の闘い嘸ぞ眼ざましきことであろう。