「博覧会場の噴水塔」

建築雑誌(240号)

叢録
噴水塔及紀念碑等一束

博覧会場の噴水塔

 来春三月上野公園に開会せらるべき東京勧業博覧会正門内の噴水塔は此程愈々其設計成りて、不日工事に着手するよし、今其一斑を掲げんに、該噴水塔は径六十尺の円形池の中心に、径約三十尺なる六角形の台石を据え、其上に六方面の階段あり、階段の上は塔にし塔上には神像を置き、全高三十尺なるが、其外面は総て青味を含める人造石を用いて築上げ、硝子並に電燈を応用して、美観を添える設計なり。

 階段は台石を合せて、高さ十一尺、各方面に五段宛、段の蹴込には、径一寸の楕円形の硝子柱を張り、五段目には丈一尺九寸のライオンを置き、其後ろには段に添う水溜ありて、溜中に大噴水口あり、其各方面の間には、四箇の角柱ありて最上の柱上には丈三尺の翼付ライオン置かれ、次はライオンの顔面、次は水溜最下には持送りの飾あり、此等ライオンは何れも其口中より噴水する仕掛なり。

 塔は階段の上に在りて、径九尺高さ十二尺の円形にして柱は円柱六本立なり。柱の内部には、硝子を張らんとの議もありしが遂に一帯に人造石の壁となすことになれり。又其額には、孟子の語なる「原泉滾々不舎昼夜」の八字を、隷書にて六方面に配し、塔頭の周囲には無数の噴水口を設け、水は相交叉し、四辺に散ずる仕掛なり。

 塔上の神像は丈七尺、バッカスと称する酒の神にして、男神なり、裸体に布を纏い、頭上に葡萄を飾り、左手にコップ右手に葡萄を持ち居れり。

 尚お上述の階段に硝子柱を用いたるは、内部より赤、青、紫などの電燈を、段々と落ちては流るる瀑布の水に反射せしめ又代る代る其燈色を変換して、変化を保たしむる設計より出でたるよしにて、神像の持てる葡萄始め、各ライオンの背面にも、糸瓜形の電燈を付するよし。

 此塔は同博覧会建築技師、新家工学士の考案にて、紀元前三百三十四五年の頃、希臘アゼンズに建てられたるコラジックモニューメント摸写せしものなれどもコラジックの塔上に在りたりと云う鼎の真否疑わしきやにて、更らにバッカスを選択し、其像をライオンと共に、美術学校に託して製作せしむることとなりたるなりと云う。