2011夏:噴水の旅―香川大学・神原文庫の噴水史料

 長崎への帰省の旅路を利用して四国の高松と松山を訪れた。
 
 高松でのお目当ては香川大学付属図書館の「神原文庫」。「神原文庫」は、香川大学の初代学長、神原甚造氏収集の旧蔵図書・資料約12,000点、16,560冊(和漢書15,890、洋書670冊)その他から成る文庫である。このなかに「洋風噴水装置カタログ」という史料があるのだ。
 
 天気は快晴。散策がてら、高松駅から香川大学まで歩いた間にすっかり汗だくになってしまった。汗が引くのを待って、いざ図書館へ。私が訪れた8月11日はちょうどオープンキャンパスの日で、図書館も多くの高校生で賑わっていた。日頃の図書館と比べるとおそらく、この日は千客万来、珍客万来という感じだっただろう。
 
 史料は二枚。銅版画のようだ。二層の水盤と多くの彫像で構成された噴水を描いたもので、二つの噴水の違いは、下段の水盤を支える柱の彫像だけ。他の部分はすべて共通する。図の上部には「A. HANDYSIDE & Co. DERBY AND LONDON」とある。これはどうやらイギリスの鉄鋼関連企業、アンドリュー・ハンディサイド社のカタログだったらしい。二枚の図はそれぞれ「CATALOGUE C」の「FOUNTAINS.12.」と「FOUNTAINS.26.」とナンバリングされている。つまり、噴水だけで少なくとも26種類の商品カタログがあったということになる。このカタログ、一式揃ったところをいつかぜひ見てみたいものだ。 
 
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 このカタログが日本で実際に活用されたものかどうかは分からない。しかし、次のような例はある。『建築雑誌』の第237号(1906年)に載った「建築物と彫刻物」という文章の一節だ。具体例を引き建築物と彫刻物の関係を論じていく中で、日比谷公園の鶴の噴水を取り上げ、「鶴はKrans, Walchenbach und Peltzerのカタログにありそうな形…」と品評している。
 
 「Krans, Walchenbach und Peltzer」は現在PELTZER WERKEという名前で続いているドイツの企業で、同社のサイトhttp://www.peltzerwerke.de/de/index.htmlで古いポスターを見ると肩書に「ZINK-ORNAMENTEN-FABRIK」、亜鉛装飾工場とある。とすれば金属製の装飾品をいろいろと載せたカタログだったのだろう。1906年の時点でこのように海外の業者の商品カタログが手に入る状態だったとしたら、神原文庫の噴水カタログも日本で参照されたものだったのかも知れない。